Onsen Queen

Spa Lady Windy

Spa Lady Onsen Gypsy

温泉ジプシー

いままでに二十回以上引っ越しをした私は、小学校は6校、中学は2校通い、大学卒業後は、年に何十回も海外を往復する生活で、まるで現在のジプシー女性のようだと自分でも感じています。
 
最近は国内外の温泉を旅して回っているので、「温泉ジプシー」と呼ぶ方が相応しいかもしれません。
ジプシーはこう言います。
「生命は放浪のためにあり、身体は愛し合うためにあり、時間は忘却のためにあり、魂は歌うためにある」
 
そして私は、ONSEN GYPSYとして世界各国を放浪し、YOU(「湯」と「あなた」)を探し求め、「YOU(湯)」に浸かって温泉に恋をし、温泉と肌をふれ合い、時を忘れ、常に”YOU”の歌を口ずさんでいる...
 
私は自然も、露天温泉のあの独特の空間も好きです。長い廊下を行った先にある更衣室に着いたら、面倒な政治やあれやこれやの噂、煩わしいこと全て服と一緒にポイッと籠へ放り込み、一切の束縛を脱ぎ捨てて、スッポンポンで温泉の中に飛び込みます。全てがリセットされて、しばし「スイッチオフ」。そうすると、原点に戻ることができます。

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Onsen Queen in China

温泉に浸かっているときは、絶えず流れる温かな泉水の中で、なんとも言えない心地よさをただただ感じるのみ。不必要な負担はdelete、空っぽのspaceの中で心も身体も充電し整頓し、しばしの休息を経たら再び「スイッチオン」。
 
周囲には湯煙が満ち、下界は遥か彼方。温泉に浸かってすっかりキレイさっぱり。私のこの温泉への深い深い愛は、いったいどんな縁が関係しているというのでしょうか...
 
もし旅行が恋愛と同じなら、温泉は私にとって生涯最愛の恋人です。自分が旅行作家になるなんて夢にも思わなかったのに、まさか「温泉作家」になろうとは。これまでにも様々な人があれこれ質問を投げかけてきました。
なぜそんなに温泉が好きなの?
どんなきっかけで?
それともいつの間にか好きになってたの?イメージ 1
温泉と恋愛してる、なんて言うと、皆さん好奇心でいっぱいになります。
その通り。私は温泉を愛しています。もちろん、湯を愛する理由もちゃんと説明できます。それは決して盲目的な愛ではありません。私には私の入浴学があるのです。
 
私の母の故郷は、台湾で最初の美人湯と言われた烏来温泉です。日本統治時代の屈尺小学校で学んだ彼女は、校内で一番のソプラノを誇り、少女時代は文山茶区の有名なお茶引き娘でもありました。私は、温泉郷の娘として生まれたからか、湯は母の味がすると常々思っていました。温泉に浸かっていると、まるで母の子宮の中で育まれている胎児戻ったような気持ちになります。
 
世間の憂慮も忘れ、母の完璧な加護を受け、温かい羊水に守られているように感じるのです。1人で旅をすることが多い私は、時に孤独と寂しさを感じることがあります。なかなか寝付けない深夜などは、静かに起き出し、タオルをさげて温泉へと行くのです。温かな抱擁を渇望する私を、温泉は常に博愛の温かな湯でもって、私を幾重にも包んでくれます。
まるで忠実なボディーガードのようであり、また、愛する恋人のように強く抱きしめてくれるのです。こんなときは、温泉に恋する気持ちに心を動かされ、つい涙が流れます。
 
イメージ 5
 
私の初めての「泡」と「湯」の体験は、忘れもしない30年前、初めての団体旅行で北海道の有名温泉名勝である登別温泉を訪ねたときのことです。真冬の大地には雪が降り、折しも6年越しの恋愛がLove is overした頃でした。私のために来る日も来る日も待っていてくれた彼。恋の歌を歌ってくれた山東出身の彼との怒濤の初恋は泡に帰し、泣いてもわめいてもどうなることもなく、そんなことを思い出しては、テンションも体温も氷点でがたがた震える私。もう、温泉へとまっしぐらです。
 
そこには湯煙が充満し、あられもない姿の女性が目の前を行ったり来たり。湯煙のおかげで、恥ずかしさを感じる前に温泉に入ることができました。そこへ吹いた一陣の寒風が、屋外の別世界の存在を気づかせてくれました。外へと通じるドアを開けると、寒風のそのあまりの寒さに、露天風呂への夢も泡に帰すかと思いましたが、先ほどの温泉の熱が身体を守るように残っていました。露天風呂へと滑り込んだら、今度は屋外の景色の美しさを発見。庭の樹も花も、全て雪で覆い隠され、イメージ 2それはまるで夢のような美しさ。一面銀色の背景に湯気が立ちこめ、空に高々とあがった三日月が樹の陰を湯煙に投影し、水面には水紋がうち、正にこのとき、はらはらと舞い降りた雪が私の肌に優しく冷たいキスを残して、そして瞬く間に温泉の湯の中に消えていったのです...
 
生まれて初めて味わった露天温泉、温泉に浸かった身体はまるで温かな肩に抱かれ、互いの肌に触れ合ったようであり、快感と無限の喜びが心身を満たしました。失恋の悩みや傷心は遠ざかり、この果てしない大地に温泉と私だけ、月下の雪の中、熱い熱い恋が始まったのです。

私の泡と帰した初恋は取るに足りないことと成り果て、そして私は温泉との恋に深く落ちてしまったのです!

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Windy Yang Love YOU in Koyo, Yamagata

東洋では、楊貴妃の華清池が「温泉水滑洗凝脂(温泉水滑らかにして凝脂を洗う)」と言われ、西洋ではローマのシーザーが、兵士を率いて温泉で怪我を癒したとされ、これが西洋初の湯治であるとも言われています。アメリカの偉大なる大統領ルーズベルトは、中年になって不幸にもポリオに罹り、彼の政治生命は潰えたかに見えましたが、ジョージア州の温泉で療養し、そしてそこにリトルホワイトハウスを建設しました。もし温泉がなかったら、政界に返り咲くことはおろか、大統領職を連続4期担うこともなかったことでしょう。風呂好きのシーザーの故郷ローマでは、全盛期には数千個もの浴場があったと言われ、その利用者も10万人を超えていただろうと言われています。ローマ帝国の繁栄は、風呂好きなローマ人によって泡に帰したという説もあります。唐高宗の大唐皇帝だって、愛妃が毎日華清池に入っていたから夢が潰えてしまったのです。

「泡  湯」
イメージ 3「泡湯」という字、多くの日本人は字面を見て「泡が立ってるお湯」=超音波風呂やバブルバスを想像することでしょう。「泡」とは動詞、「泡湯」とはつまり「温泉に浸かる」という意味です。実は「湯」とは中国語では「スープ」のことなのですが、日本語で言うところの 「湯」の意味を知った台湾人が、近年になって開発した新しい語感なのです。
 
昔の人は「泡湯」を忌み嫌いました。財産が「泡湯」になる、愛情が「泡湯」になる、夢が「泡湯」になる...。一切があっと思う間に「無」になる、という意味だからです。現代はというと、気軽に海を渡って温泉に入り、帰って来たらつぎつぎに湯屋を建て、湯の夢を追いかけています。
 
"どこから来たかなんて聞かないで。私の故郷は遥か彼方。どうして放浪するのか?遥か彼方へ。放浪..."
Spa Ladyの当時の初恋は泡と帰しましたが、温泉との意外な出会いがあり、「泡湯」との恋愛が始まりました。温泉ジプシーとなった今、次の恋はどこかしら...全ては縁の導くままに...そしてまた私は旅に出るのです...